あの人の恩 ありし日を思う  2018年09月01日

 私は僧侶になり17年が経ちます。これまでたくさんの方々を見送ってきました。その方々は、私を幼少の頃から知ってくださっている方、僧侶になってからお世話になった方もいらっしゃいます。

 お茶の先生をなさっておられた奥さまがいらっしゃいました。奥さまと初めてお会いしたのは私が大学生の頃でした。読経を終えると、お抹茶を点ててくださいました。抹茶碗で頂く抹茶は初めてで、全く作法を私は知りません。そのことを正直にお伝えしますと「そんなこと気になさらずお茶を楽しんでくださいな」と仰ってくださったのです。無知な私にとってはありがたい一言でした。それから僧侶となり毎月お参りをさせて頂きますと、お抹茶を点ててくださいました。最初は苦いだけの味でしたが、何度も頂くうちに苦みの中に甘さがあることを知ることができました。また、後味がすっきりで美味しいのです。その後、奥さまから簡単に作法や楽しみ方を教えて頂きました。先立たれたご主人も奥さまの点てるお抹茶が好きだったそうで、お命日には必ずご主人が使っておられた茶碗で供えられ、ご主人を思い手を合わせておられました。そんな奥さまは平成26年2月に極楽へと向かわれたのです。

 私に作法や楽しみ方を教えてくださった奥さま。抹茶碗でお抹茶を頂きますと奥さまの顔が浮かびます。「そんなことは気になさらずお茶を楽しんでくださいな」と仰って頂いた言葉と笑顔は今も私に残っています。
合掌