信頼はかたちのない財産  2020年12月31日

 「口は災いの元」と言いますが、仏教には言葉で犯してしまう罪があります。他人を誑かすこと、仲のいい関係を二枚舌で仲違いさせること、他人を罵って悩ませること、心にもない言葉を並べることです。これらは全て仏教では罪だというのです。

 豊臣秀吉に仕え、後に会津若松城主となった蒲生氏郷(がもううじさと)という武将がいました。この氏郷にある人が、非常に優秀な玉川左右馬(たまがわそうま)という者を推薦しました。氏郷は「一度会ってみたい」と彼を自分の元に迎え入れたのです。しかし、それから10日ほど玉川と話をした後、彼を召し抱えることなく返したのです。家臣は不審に思い「あの優秀な玉川をどうして引き入れなかったのですか」と尋ねました。すると氏郷は「玉川は、初めて私と会った時、言葉の限り私を褒めちぎった。一方では、仲間となる武将を罵り悪口を言ってきた。また自分を認めてもらおうと、自分のこれまでの功績を自らひけらかしてきたのだ。このような者はたとえ優秀であっても、信頼はできない。必ず玉川のせいで仲間は分裂し、家は衰退してしまうから、引き入れるべきではないのだ」この後、別の大名は玉川左右馬を喜んで引き入れましたが、氏郷の見立て通り、仲間は分裂し、その大名家は衰退してしまったそうです。

 私たち自身の言葉によって、信頼は得られたり得られなかったりするのです。私たちは言葉を使ってコミュニケーションを取るからこそ、言葉を大切に使っていきたいものです。

合掌